
サッケードとアンチサッケードの効果について
ボクノジム高円寺店代表トレーナーのそうです!
私たちは日常生活の中で、無意識のうちに視線を素早く動かして周囲の情報を得ています。この視線の素早い移動は「サッケード(Saccade)」と呼ばれ、主に眼球運動の中でも最も頻繁に使われる動作の一つです。また、そのサッケードをあえて抑制し、反対方向へ視線を移す課題を「アンチサッケード(Anti-saccade)」といいます。これら2つの動作は、単なる眼球運動にとどまらず、脳の機能全体、特に前頭葉や大脳基底核の状態を反映する重要な神経行動課題とされています。
今回はこのサッケードとアンチサッケードについて解説します。
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サッケードとは
サッケードは、視線をある対象から別の対象へと瞬時に移動させる動作であり、通常は反射的・自動的に起こります。この動作には、後頭葉の視覚野からの入力がまず上丘(Superior Colliculus)に伝えられ、脳幹の眼球運動中枢(橋・中脳)を介して眼球筋に運動指令が送られます。
特に、自然なサッケードは前頭眼野や上丘を通して、刺激のある方向に視線を誘導する際に働きます。
アンチサッケードとは
アンチサッケードは、視覚刺激の方向とは反対方向に意図的に視線を移動させる課題です。たとえば、右側に突然刺激が現れたときに、それを見ないようにして左側を見る必要があります。この課題には、反射的なサッケードを抑制し、目的的に別の動作を選択するという実行機能が求められます。
このとき活動するのが、前頭前野(特に背外側前頭前野)です。この領域は、衝動の抑制や、意図的な行動選択、注意の切り替えなどを司っています。
アンチサッケード課題では、この前頭前野による「抑制の働き」が正しく機能していない場合、反射的に刺激方向を見てしまい、ミスとなります。
大脳基底核の役割
アンチサッケード課題では、大脳基底核の働きも重要です。大脳基底核は、運動の選択と抑制に関わる皮質下の神経核の集まりで、以下のような構造を含みます
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尾状核・被殻(線条体)
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淡蒼球
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黒質緻密部
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視床下核
このネットワークは、不要な運動を抑制し、必要な運動だけを実行させる調整機能を担っています。
アンチサッケード課題では、刺激方向へのサッケード(プロサッケード)を抑制し、反対方向へ視線を向ける運動を選択的に促進する必要があります。その際、大脳基底核の間接経路と直接経路がバランスよく働き、適切な運動出力が生成されます。
アンチサッケード課題と神経機能の評価
アンチサッケード課題は、前頭前野と大脳基底核の機能を実際の行動を通じて評価できるツールとして多くの研究や臨床現場で用いられています。
以下のような事実が知られています:
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前頭葉障害(前頭側頭型認知症、外傷性脳損傷など)では、アンチサッケードのエラー率が高くなる
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パーキンソン病やハンチントン病など大脳基底核疾患では、アンチサッケードの反応遅延やエラーが増加する
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加齢によってもアンチサッケードの成績は低下傾向を示す
これらはすべて、アンチサッケード課題が「前頭葉と大脳基底核ネットワークの統合機能」を必要とすることを示しています。
サッケード・アンチサッケードの訓練効果
トレーニングとしてのアンチサッケードの研究も進んでおり、眼球運動のトレーニングが注意機能や認知の柔軟性を高めるといった報告もあります。
例えば、高齢者や発達障害児において、アンチサッケード課題のトレーニングを継続することで、抑制機能やワーキングメモリの向上がみられるという結果もあります
。ただし、これは神経可塑性に関する研究の一部であり、すべての個人に効果があるとは限りません。
まとめ
サッケードとアンチサッケードは、眼球運動という枠を超えて、脳の実行機能・抑制機能・運動選択機能の健全性を評価するツールです。
特にアンチサッケードは、前頭前野による抑制制御と、大脳基底核による選択的運動制御が密接に関与する課題であり、神経疾患の評価や認知機能のチェック、さらにはリハビリ・トレーニングへの応用まで幅広く活用されています。
目の動きについて何か参考になれば幸いです。
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